埼玉県の東南部に位置する越谷市は、水の都である。市域を元荒川、綾瀬川、新方川、中川などの一級河川が流れ、それらの川筋を多くの用水が網の目のように結ぶ。部分的になだらかな起伏はあるものの地形はほぼ平坦で、かつてはその大部分が農地だった。しかし日光街道が縦貫しているうえに東京都心からわずか25km圏に位置しているから、近年はベッドタウンとしての発展がめざましく、現在の人口は32万人弱に達している。
Sさんがこの家をこうにゅうしてから30年近くになる。建築後4〜5年ほどの戸建住宅が売りに出ているという知人からの紹介だった。不動産業者は介入していない。建て主がかなり力を入れて立てた家らしく、木材なども吟味されているし、細工もしっかりしている。外見ばかりをつくろった建売住宅ではないところが気に入って、すぐ購入したという。しかしよく話を聞いてみると、S邸の大改造工事は今回が4回目だという。30年そこそこの間に、4回も大規模リフォームを行ってきいたということは、7〜8年ごとに何らかの工事をしてきたことになる。
最初の改造工事は購入してから数年後で、子ども部屋の増築だった。2階東南角部分にカギの手状をした広いベランダがついていたが、南部分だけ残して東側に部屋を増築したのだ。
さらにその数年後、日当りのいい2階にリビングと台所を移設した。キッチンは対面式のオープンキッチンで、これは家族にも好評だった。そして3回目は西暦2000年、1階にリビングとキッチンを戻し、リビングと和室を南側に少し拡張した。子供さんたちが成長したこともあるが、台所が2階にあるというのは毎日の生活でやはり大変だったらしい。買い物から帰って生鮮食品を冷蔵庫に入れる為に、わざわざ階段を上り下りしなければならない。将来自分たちが高齢化することを考えれば、やはり台所や居間は1階においたほうがいいと考えたのである。
ちょうどそのころ、Sさんは真剣に建て替えを考えていた。しかしいろいろ検討してみると、S邸は建て替えれば確実に小さくなる。家が小さくなるのは望ましくないので、断念した。そして今回のリフォーム工事に至るわけだが、まず一番の目的はオール電化にしてお風呂と台所を全面改装することであった。夜間電力を利用する給湯機で24時間お風呂に入れるし、台所は火がでないIHクッキングヒーターで火災や火傷の心配がなくなる。
しかしこの改装工事に先立って、近所に嫁いでいる娘さんから「それだけお金をかけるなら地震対策もしておいたら」と助言された。確かに改装工事で快適になっても、地震で倒壊してしまったら元も子もない。と同時に、Sさんは1年ほど前から2階の床のきしみが気になっていた。静かに歩いているだけでも、2階の床が部分的に沈み、ギシギシといやな音を立てるのだ。畳をはがしてみても、異常は見つからない。また表通りを大型トラックが走るだけで、家全体が揺れる。やはり一度、専門家に見てもらった方がいいかもしれない。
そこで改装工事に先立ち、耐震診断を受けてみることにした。現地調査と診断は18年夏に行われたが1階、2階ともにX(東西)方向の数値が低く、危険な状態であることが分かった。とくに1階X方向の数値は0.42しかなく、これは「倒壊する可能性が高い」領域である。リビングと西側の和室は、前回に改装を行ったとき柱と壁を撤去して3尺ほど広げているから、構造的にかなり無理がある。2階の床がきしむのも、家が揺れやすいのも、おそらく壁下直下率の低さや壁のバランスの悪さが原因になっているのだろう。
このほかに、増築部分と既存部分との取り合い(接合)の甘さも気になったので、各締結部分を現行基準法に合わせてしっかり締結することにした。また2階の床のきしみを解消するため、和室の天井を解体して構造用合板を貼り込み、2階の床強度を高めた。水平剛性を高めれば、直下率の悪さを補う効果もある。これら一連の補強工事によってS邸の診断数値は「一応倒壊しない」レベルまで大幅に改善されている。
補強工事は台所や浴室などの改装工事と並行して行われたため、2か月ほどかかったが、Sさんがまず気付いたのは家が揺れにくくなったことだという。テレビの臨時ニュースで地震があったことに気づくという経験が何回もあるそうだ。また付帯工事として床下の湿気が多かったため、防湿シートを敷き込んだのちに調湿剤を約3cmの厚みで散布したところ、1階の部屋の湿気が明らかに違うという。住む人にも、家にも快適な環境になったわけだ。
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