― 西芳寺にて、静寂と呼吸のあいだ ―

LOHAS studio

津籠和歌子@OKUTA

2025/11/10

静かな朝、
あらかじめ予約をしていた
スマホの画面を見せて門をくぐった瞬間、
さっきまでのデジタルな自分を忘れさせてくれるような
時間の輪郭がゆるむ静寂が広がっていた。

写経の筆をとり、
一文字ずつに心を置いていく。
墨の香がふっと立ちのぼり、
思考が少しずつ遠のいていく。
―― 無になる、という感覚。

庭へ出ると、
苔の緑が幾重にも重なり合い、
まるで大地が呼吸しているよう。
陽の光が差すたびに、
それぞれの苔が異なる表情を見せてくれる。

「苔寺」と呼ばれるゆえんは、
この静けさの中にある命の気配。
約120種もの苔が織りなす、
柔らかな絨毯のような景色が、
訪れる人の心をそっと包み込む。

水鏡のような池には、
樹々が逆さに映り込む。
―― 逆さ富士ならぬ、逆さ樹。
現と幻が溶け合うその瞬間、
天地の境さえも曖昧になっていく。

光と影、実像と映像。
祈りと自然が静かに響きあう場所。
心が「無」に還る、
そんな美しい庭でした。

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